東京高等裁判所 平成元年(行ケ)163号 判決
一 請求原因一(特許庁における手続の概要)及び二(審決の理由の要点)の事実については、当事者間に争いがない。
二 原告は、本件審決には手続的な違法がある旨主張するが、その点はさておくとして、実体的に審決を取り消すべき事由が存するか否について、検討する。
1 そこでまず、本願商標の構成についてみると、本願商標が、ゴシツク体で「KITCHEN HOUSE」のローマ字を横書きしてなるものであることについては、当事者間に争いがない。
また、成立に争いのない甲第二号証によれば、本願商標は、別紙一記載のとおり、「KITCHEN」の文字と「HOUSE」の文字との間に二分の一ないし三分の一文字程度の間隔を設け、「KITCHEN」の文字の「KとI」及び「TとC」が上部または下部で僅かにつながつており、また「HOUSE」の文字の「HとOとU」の文字が中央部でつながつているほかは、等間隔に横書きしてなる比較的簡明な構成であり、かつ、これを構成するローマ字は同一の書体であり、同一の大きさをもつてなることは明らかである。したがつて、本願商標を構成する「KITCHEN」及び「HOUSE」は、その書体、大きさ、配置からみて、その間に主従、軽重の関係は認められない。
次に、本願商標の観念についてみると、「KITCHEN」の文字が「台所、調理場」等を意味し、「HOUSE」の文字が、「家屋、建物、集会所」等を意味する、いずれも日常普通にみられる平易な英語であつて、多少なりとも英語の知識を有する者であれば、双方共に理解することができ、一方は読めるけれども他方は読めないというものではないと解されることは当裁判所に顕著である。そして、「KITCHEN HOUSE」という語からは、強いて考えれば「調理場として使われる建物」という意味に理解できないわけではないが、一般的には、英語としても、和製英語としても特定の意味を有するものと認識することはできないから、全体として特定の観念が生じるものとはいえない。また、「KITCHEN」と「HOUSE」の二つの語は、右認定のとおり、いずれも平易かつ日常みられる英語であつて、その間に観念上の顕著な主従、軽重の関係があるものとは認められない。
また、本願商標を称呼の面からみると、それを一連に称呼しても、促音を加えても七音しかなく、自然に「キツチンハウス」と称呼することができ、冗長の感じを与えるものではない。
以上の点を総合すれば、本願商標は、商標として使用された場合には、取引者、一般需要者は、これを全体として不可分一体の商標として認識するものであり、これを殊更に分離して「ハウス」とのみ称呼したり、単に「家」等の観念をもつて認識したりすることはないものと認められる。
したがつて、本願商標は、「KITCHEN HOUSE」という特定の観念のない造語であつて、「KITCHEN」の文字と「HOUSE」の文字とは分離されることなく不可分な一体のものとして認識され、「KITCHEN HOUSE」なる一連の語の全体が自他商品の識別機能を果たしていると認めるのが相当であり、本願商標における自他商品の識別機能を果す部分が後半の「HOUSE」の文字の部分にあるとする審決の判断は誤つたものといわざるを得ない。
2 被告は、本願商標を指定商品中、例えば「なべ」その他の台所用品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は「なべ」その他の台所用品に表示された「KITCHEN」の文字をもつて、その商品の用途を単に理解するにとどまるものというべきであり、自他商品を識別する機能を果たす部分はそれに続く「HOUSE」の文字にあり、この「HOUSE」の文字をとらえて取引に当たる場合も少なくない旨主張する。
しかし、本願商標が商標として使用された場合には、取引者、一般需要者がこれを全体として不可分一体の商標として認識することは前記のとおりであるので、たとえ、「KITCHEN」の文字を含む本願商標が台所用品について使用されたとしても、「KITCHEN」の文字はあくまでも不可分一体の本願商標の構成要素として理解されるものであつて、取引者、一般需要者が本願商標のうち殊更に「HOUSE」の文字のみをとらえて取引に当たるものとは、前記認定のような本願商標の一体性に照らし、到底認められない。したがつて、被告の主張は理由がない。
3 以上によれば、本願商標からは「ハウス」なる称呼・観念が生ずることはなく、特定の観念のない「キツチンハウス」なる称呼のみが生ずるものであり、一方、引用商標が「ハウス」の称呼・観念が生ずるものであることは前示のとおりであるから、本願商標と引用商標とは称呼・観念を異にするものであることは明らかである。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由があるからこれを認容する。
〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
株式会社マルホウは、昭和五〇年六月二三日、第一九類「台所用品、日用品」を指定商品として、別紙一記載のとおり、「KITCHEN HOUSE」の文字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願(昭和五〇年商標登録願第八五〇二八号)をし、同社は右商標登録出願により生じた権利を昭和五一年一〇月二九日付けで関東ユーデル株式会社に譲り渡し、同月三〇日、特許庁長官にその旨の届出がされた。原告は、昭和五二年一二月九日、関東ユーデル株式会社から右権利を譲り受け、同月一四日付けで特許庁長官にその旨の届出をしたが、昭和五六年一二月三日拒絶査定を受けたため、これを不服として昭和五七年二月一七日付けで拒絶査定に対する審判を請求した。特許庁は、これを昭和五七年審判第二四〇七号事件として審理した上、平成元年五月二五日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、審決書謄本は同年六月二九日に原告に送達された。
二 審決の理由の要点
本願商標は、ゴシツク体で「KITCHEN HOUSE」のローマ字を横書きしてなり、第一九類「台所用品、日用品」を指定商品として、昭和五〇年六月二三日登録出願されたものである。
これに対し、原査定において拒絶理由に引用した登録第三九〇六九三号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙二に表示した構成よりなり、(旧)第七類「他類に属せざる金属製品」を指定商品として、昭和二四年二月一〇日登録出願、同二五年八月三〇日に登録され、同四六年五月一二日及び同五五年一二月二三日の二回にわたり、商標権の存続期間更新の登録がされたものである。
そこで、両商標の類否について判断するに、本願商標は前記構成のとおり、「KITCHEN HOUSE」の文字からなるが、前半部の「KITCHEN」の文字は、台所を意味する英語として、広く親しまれているばかりでなく、台所用品を取扱う業界においては、Kitchen ware,Kitchen unit等の用例にみるごとく、該語を商品の用途表示として一般に使用している事実がある。
そうとすれば、本願商標を指定商品中、なべ類、食器類、調理用具等の台所用品に使用したときは「KITCHEN」の文字は、単にその商品の用途を表示するにすぎない。
したがつて、本願商標の自他商品を識別する機能を有する部分は、後半部の「HOUSE」の文字にあり、これより単に「ハウス」(家)の称呼、観念を生ずるものと判断するのが、商取引の実務に徴し相当である。
一方、引用商標は別紙二に表示したとおり図形と文字の異なつた構成要素よりなるものであるから、構成中のローマ字と片仮名の各文字から、「ハウス」(家)の称呼、観念を生ずること明らかである。
してみれば、両商標は、その外観について論じるまでもなく、称呼及び観念を共通にするものにして、互いに相紛れるおそれのある類似の商標であり、かつ、指定商品も互いに抵触すること明らかであるから、本願商標を商標法四条一項一一号に該当するものとして、その出願を拒絶した原査定は妥当である。
〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。
別紙一
<省略>
別紙二
<省略>